・IT、DX、オンライン英会話、医療、ペットなどの市場規模は、自分でゼロから推計するよりも、上場企業がIR資料で開示している数字を出発点にした方が圧倒的に早くて精度も高い。
・特にグロース市場上場企業の「事業計画及び成長可能性に関する事項」には、TAM/SAM/SOMの考え方や前提ロジックがセットで整理されており、市場の切り方・見立て方を学ぶ教材として非常に優れている。
・本記事では、複数業界の市場規模スライドとその出典を一覧化しているので、起業や新規事業検討の際に「どんな角度で市場を定義し、どの数字を引用すべきか」を考えるうえでの実務的なリファレンスとして使ってほしい。
はじめに:市場規模は“IR資料から逆算する”のが速い
IT業界の市場規模、DX領域の市場規模、オンライン英会話の市場規模、医療やペット領域の市場規模……。
起業や新規事業のアイデアを考えるとき、多くの人はどこかのレポートに載っている「市場規模◯兆円」という数字を引用したくなるはずです。
とはいえ、自分でいきなり市場規模をフルスクラッチで計算するのはなかなか大変ですし、前提条件の置き方によって数字もブレます。その一方で、上場企業がIR資料の中で開示している市場規模の整理は、かなり実務的かつ“現場感のある数字”になっているケースが多い。
そこで今回は、グロース市場に上場している会社のIR資料(事業計画及び成長可能性に関する事項)から、参考になりそうな「市場規模スライド」を領域別にまとめました。
各社によって TAM/SAM/SOM の定義やロジックは異なるので、あくまで「市場の切り方・考え方の参考」として眺めるのが良いと思います。
「事業計画及び成長可能性に関する事項」と市場規模スライド
前提として、「事業計画及び成長可能性に関する事項」は、証券取引所の上場規程で記載要領が定められています。
グロース市場の上場企業は、この枠組みに沿って、
- ビジネスモデル
- 市場環境(市場規模・競合環境)
- 競争力の源泉
- 成長戦略・事業計画
- リスク情報
などを開示することになっています。
市場環境パートの中に、その企業がどのように市場を定義し、どのレポートや統計を参照しているかがスライドとして整理されていることが多く、そこを見るだけでも「市場の見立て方」の勉強になります。
この記事で押さえてほしいポイント
・市場規模は“闇雲にググる”よりも、上場企業のIR資料から逆算した方が早くて実務的な数字になりやすい。
・同じ領域でも企業ごとにTAM/SAM/SOMの切り方が違うので、「どこからどこまでを市場とみなすか」の思考プロセスを盗むのが重要。
・本記事のように業界別・企業別の市場規模スライドを横並びで眺めると、起業や新規事業検討の際の“市場のとらえ方の引き出し”が一気に増える。
・最終的には自分なりの前提で市場を再定義しつつ、IR資料の数字を出発点として扱うとバランスが良い。
領域別:IR資料から拾える市場規模のスライド一覧
ここからは、実際にIR資料に載っている市場規模スライドを、領域ごとにざっと整理していきます。
詳細な図や数値は、必ず各社の参照リンクから原資料を確認してください。
IT関連市場
エンタープライズIT

大企業向けITソリューション・システムインテグレーションなど、エンタープライズIT全体の市場規模を扱ったスライド。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5574/tdnet/2298195/00.pdf
建設IT

建設業界向けのSaaSや業務支援ツールなど、「建設×IT」領域の市場規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5254/tdnet/2255323/00.pdf
ERP・ソフトウェアテスト


ERP市場やソフトウェアテスト市場など、基幹システム・品質保証まわりのマーケット。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5252/tdnet/2305063/00.pdf
セールスフォースプラットフォーム

Salesforceプラットフォーム上での開発・導入支援など、エコシステム周辺市場の規模。
ネット広告関連市場
インターネット広告

日本のインターネット広告市場全体、媒体別・デバイス別の構造など。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9159/tdnet/2305054/00.pdf
インフルエンサーマーケ

インフルエンサーを活用したマーケティング領域の市場規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5242/tdnet/2239251/00.pdf
クラウドサービス・DX関連市場
クラウドサービス関連市場

クラウドサービス全般、もしくは特定クラウド領域の市場規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5578/tdnet/2302461/00.pdf
DX関連領域市場

企業のデジタルトランスフォーメーション支援、DXソリューション全般の市場規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5577/tdnet/2301340/00.pdf
シェアリングビジネス関連領域市場

シェアサイクルなどのシェアリングエコノミー領域全般。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9338/tdnet/2257518/00.pdf
オンライン英会話・教育関連市場
オンライン英会話・語学関連領域市場


オンライン英会話サービスや語学学習サービス全般の市場規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9560/tdnet/2184868/00.pdf
https://pdf.irpocket.com/C9345/xivA/ZGoi/Y2qc.pdf
研修関連領域市場

企業研修・人材開発・コーチング等の研修系市場。
教育関連領域市場

学習塾・教育SaaS・EdTech 全般を含む教育市場。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5134/tdnet/2207700/00.pdf
エンタメ・クリエイター関連市場
配信ストリーミング


ライブ配信・動画配信などのストリーミング市場。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5031/tdnet/2109836/00.pdf
https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS05169/ec2d5871/9475/4579/bb26/2d80fb0fa4cd/140120230512570034.pdf
ゲームセンター関連

アミューズメント施設・ゲームセンター市場の規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9166/tdnet/2315799/00.pdf
eスポーツ関連領域・クリエイターサポート関連


eスポーツ業界や、配信者・クリエイター向けサポート事業の市場規模。
メタバース

メタバースプラットフォーム・関連サービスの市場規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5240/tdnet/2216545/00.pdf
ファッション・D2C・フード関連市場
ファッション関連領域市場

アパレル・ファッションEC・サブスクなど。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9557/tdnet/2172741/00.pdf
D2C関連領域市場

生活雑貨・食品などD2Cブランド全般の市場規模。
フードロス関連領域市場

食品ロス削減サービス・アウトレットECなど。
金融・HR・IT人材関連市場
投資信託関連市場

投資信託・資産運用領域の市場規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7330/tdnet/2264929/00.pdf
HR・人材関連領域市場

人材紹介・人材派遣・HRテック等の市場。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9344/tdnet/2255327/00.pdf
ITエンジニア派遣・受託

ITエンジニアの派遣・受託開発等を含む市場規模。
ペット・医療・介護・公営競技関連市場
ペット関連領域市場


ペット用品EC・医療・保険などペット関連全般。
訪問介護関連市場

訪問介護・在宅ケアなど介護関連サービスの市場。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/5038/tdnet/2255116/00.pdf
医療機関関連領域市場

医療機関向けIT・BPO・周辺サービスの市場規模。
出典:
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9341/tdnet/2306955/00.pdf
公営競技関連市場

競馬・競輪・競艇など公営競技に関連する市場。
おわりに:市場のとらえ方・考え方の参考に
いかがでしょうか?
IT〜DX、教育、エンタメ、フードロス、ペット、医療、公営競技まで、多種多様な市場が並んでいますが、「市場環境」という同じ枠組みでスライドを見ていくと、各社がどんな前提で市場を切っているかがよく見えてきます。
- 「この会社はここまでをTAMとみなしているのか」
- 「このサービスはSAMをかなり絞っているな」
- 「自分の事業アイデアをこの構造に当てはめると、どう市場を定義できるか」
そんな観点で眺めてもらえると、市場規模の考え方の勘所がつかめてくるはずです。
ビジネスモデル・事業についてのラフな面談も受け付けていますので、興味があればぜひ気軽に連絡をもらえるとうれしいです。
FAQ
Q1. 市場規模は必ずIR資料から引用しないといけませんか?
A. いいえ、必ずしもそうではありません。ただ、IR資料は上場企業が投資家向けに整理した“使える前提”が揃っているので、自分でゼロから推計する前に一度参照する価値は大きいです。
Q2. TAM/SAM/SOM が企業ごとに違うのはなぜですか?
A. どこまでを「本当に狙う市場」とみなすかは、ビジネスモデルや戦略によって変わるからです。同じ領域でも、ある会社は広くTAMを取りに行き、別の会社は特定ニッチに絞ってSAMを定義していることがあります。
Q3. スタートアップのピッチ資料に、ここで紹介されている市場規模スライドの数字をそのまま使ってもいいですか?
A. 出典を明記している限り、参考値として使うのは問題ありません。ただし、自社の事業範囲と前提が合っているかは必ず自分で検証し、必要なら前提を調整したうえで使うのが良いです。
Q4. 市場規模が大きい領域ほど、起業に向いているのでしょうか?
A. 一概には言えません。巨大市場でも競合過多で差別化が難しいこともあれば、ニッチ市場でも高い収益性を実現している会社もあります。重要なのは「自社がどのポジションを取れるか」の方です。
Q5. 市場規模を考えるときに、IR資料以外でおすすめの情報源はありますか?
A. 官公庁や業界団体の統計資料、シンクタンクのリサーチレポート、スタートアップ向けレポートなども有用です。ただ、IR資料はこれらの情報を“投資家向けに再整理した形”になっていることが多いので、最初の入口としては扱いやすいと思います。