バリュエーションは「上げるゲーム」では全然ないです。スタートアップの世界では「高い時価総額=イケてる会社」という誤解がよくあります。
が、実際には、時価総額をむやみに上げすぎることが最も危険な失敗パターンの一つです。とくに初めてファイナンスの初心者にとって。
本記事では、時価総額を上げすぎると何が起こるのか?そして、どうやって適正なバリュエーションを決めれば良いのか?を、はじめて資金調達をしようとしている人向けに理解できるようゆっくり解説してみます。
・時価総額の上げすぎは「次の資金調達ができなくなる」最大のリスク。
・高バリュエーションは事業より「帳尻合わせの成長」を強制して組織も崩れる。
・適正な時価総額は「事業の実力×市場環境×Exitの現実性」で決まる。
・目指すべきは“最大値”ではなく、“次もアップラウンドで調達できる値”。
なぜ初心者ほど「高い時価総額が正しい」と誤解するのか?
起業したての人ほど、こう考えがちです。
- 「希薄化したくないから高く出したい」
- 「投資家に強く見せたいから時価総額は大きく」
- 「SNSを見るとみんな高いバリュエーションで調達している」
しかし現実はまったく逆で、過度な時価総額は“未来の自分への借金”です。
以下で解説しますが、時価総額が高いほど、あなたは「高成長を約束した状態」で走ることになります。
時価総額とは“未来の業績目標”であるという基本理解をする。
多くの人は時価総額を「企業の価値」と考えますが、未上場では少し違います。
時価総額 =「これくらい伸びるよね?」という市場の期待値
つまり“達成しないといけないノルマ”です。
高い時価総額をつけるほど、将来必要な売上・利益・利用者数のハードルは一気に跳ね上がります。
たとえば、シリーズAで時価総額30億で調達した会社を例にするとわかりやすいです。この会社は、時価総額50〜60億クラスの成長を1〜2年で証明しないと次ラウンドは厳しくなります。難しさ分かりました?
初めてファイナンスの初心者がここを理解せずに見栄でバリュエーションを上げてしまい、苦しむケースが本当に多い。本当に。
時価総額を上げすぎた会社に起こる3つの悲劇
①次の資金調達ができなくなる(ダウンラウンド地獄)
時価総額30億で調達したのに、2年後の実績を見ると「せいぜい15〜20億相当」にしか成長していない。
投資家:「これはアップラウンドでは入れないですね~」
結果:ラウンド不成立 or ダウンラウンド
初心者が最も詰むパターンがこれ。
②組織が“数字の空気圧”に耐えられなくなる
高バリュエーションの副作用は社内にも広がります。
- 高すぎる期待に合わせるため、中途採用の給与がインフレ
- 採用した人材が「聞いていた成長角度と違う」と離職
- 社長が“事業づくり”より“KPIづくり”に追われる
- プロダクト開発が雑になり、ユーザー価値が低下
時価総額を吊り上げるだけでは、組織はついてきません。当たり前です。
③Exitの現実値と乖離し、身動きが取れなくなる
特にいまは、
- 上場維持基準100億円問題(2025〜)
- M&Aでは“現実的なバリュエーション”が基本
のため、過度に高い時価総額はExitルートをめちゃくちゃ狭めます。
高すぎるバリュエーションで入った投資家を満足させる出口が存在しない。これは意外と多くの会社がぶつかる壁。(無視したらいいやん。というのもありますが、それは起業家の判断次第です)
初めてファイナンスの初心者がよくやる「バリュエーションの誤解」5選
①同業比較を都合よく使う
売上数億(もない)なのに「海外SaaSは20倍だからウチも20倍」など。
② GMVや“見かけの数字”だけで評価しようとする
利益構造を無視して数字だけ膨らませても実力とは全くの別もの。
③海外ユニコーンを基準にする
日本市場の投資家・Exit環境とは全く条件が違うのにどうした?
④ 希薄化を嫌いすぎて高バリュを希望する
希薄化は「必要経費」と割り切ってる起業家もいる。高すぎる時価総額の方がリスク大きい。
⑤ SNSで見る情報を真に受ける
ことXは成功例・例外しか流れてこないのにそれが正しいと誤認。全然中央値でない。
じゃあ適正な時価総額はどう決める?に対する正しい考え方
①事業実力ベースで算出する
最低限見るべきは以下。
- YoY成長率
- 粗利率
- リピート率・解約率
- 顧客獲得効率
- 単価と粗利構造(SaaS・SES・BPOで全く違う)
事業構造ごとに“相場”が存在するので、まずは自社の構造を理解することが必須。いや当たり前なんですが‥‥。
②Exitから逆算する(逆算バリュエーション)
IPO・M&Aどちらでもいいのですが、出口から逆算するのが最も現実的。
- IPOの場合:上場時の時価総額の実例
- M&Aの場合:買い手が評価する利益ベースの倍率
これを逆算して現在のバリュエーションを決めると、無理のない“筋の通った”値になります。
③次ラウンドで必ずアップラウンドできるラインを設定する
これは創業者が必ず押さえておくべきポイントは3つあって、
- 今回の調達目的
- 来期までに達成できる成長角度
- その実力で“自然にUpできる”ライン
このライン以下で時価総額を設定するのが正解。結果的に、調達のストーリーが滑らかになり、投資家の信頼が積み上がっていきます。シリアル起業家が強いのはここの精度。
ケーススタディ:上げすぎて詰んだ会社/控えめで勝った会社
失敗例A:利益構造の弱いビジネスなのにSaaS倍率を適用
成長角度が合わず、シリーズAで詰む。
失敗例B:初回で時価総額を上げすぎ、シリーズBで不成立
結果としてダウンラウンドか、調達停止。
成功例C:保守的バリュエーションではじめて、毎回アップラウンドで調達
投資家の信頼も厚くて、結果として時価総額も事業も伸び続けた。
初めてファイナンスの初心者ほど、「バリュエーションを上げすぎた側の末路」を学ぶべき。
初心者のための実践アクション
改めてまとめると、
- 自社の“実力ベースのバリュエーション”を作る
- 次ラウンドのアップラウンドを前提に逆算して時価総額を決める
- 投資家とは「値決め」ではなく「ストーリー設計」をする
FAQ(よくある質問)
Q1:投資家から高い時価総額を提示された場合は?
A.事業実力に対して明らかに高いなら下げる方が安全。
Q2:時価総額を低めにするとナメられませんか?
A.むしろ堅実な経営者として評価されます。自分はこのほうが好きです。
Q3:ダウンラウンドはどれだけ悪影響がありますか?
A.採用・投資家関係・社内士気すべてに悪影響。
Q4:シリーズAの典型的倍率は?
A.ビジネスモデルによって大きく変わるため、業界相場に合わせるべき。
Q5:Exitが見えない場合はどう決めればいい?
A.まずは「事業モデルの将来形」を描くことが先。
時価総額は“戦略資本”である
時価総額は、起業家の「見えない未来の自由度」を決めます。高ければ必ずしも良いわけではなく、むしろ高すぎると動きが鈍くなります。
時価総額は“最大値”ではなく、“次の手が打てる値”を選ぶこと。
これが、初めてファイナンスの初学者が学ぶべき資本政策の基本だと思います。
・プレシード・シードの資金調達では、最初に会うべき相手はキャピタリストではなく GP(General Partner)一択。意思決定権があり、投資委員会にも最も強い影響力を持つため。
・キャピタリストはあくまで“サラリーマン”として評価軸に沿って動き、トレンド寄りの案件に寄せたフィードバックになりがちで、起業家を本質からズラすリスクが高い。
・一方GPは、LPへの責任と投資先の成長という“結果”で評価される存在であり、プロダクトの本質・事業の将来性を軸にフラットに意思決定する。よって資金調達の場では 最初にGPへ直接アクセスする戦略が最も合理的である。
“誰に話すべきか”という問題はなぜ起きるのか
資金調達フェーズでスタートアップが直面する悩みのひとつが、
「VCの誰と話すべきか?」 という点です。
プレシードやシードの起業家にとって、最初の資金調達は事業の未来を左右する重要な意思決定。
ただ、その相談相手を間違えると、事業の軸がトレンド寄りに曲がったり、投資委員会向けの“通りやすい案”に矯正されたりと、本来の価値からズレる危険性があります。
私はここを強く誤解している起業家が非常に多いと感じています。
国内独立系VCで話すべき相手は「GP」一択である理由
結論から言うと、
初期スタートアップが話すべき相手は GP(General Partner)一択 です。
理由は極めてシンプルで、VCにおける最高意思決定権者だから。
もちろん投資委員会という場は存在します。しかし実態として、
- 投資委員会での発言権
- 投資判断への影響力
- 起案の推進力
いずれも GP > キャピタリスト です。
極端な話、GPが「投資したい」と判断すれば、投資委員会はほぼ通ります。
(形式的な承認プロセスはあっても、実質はGPの意思が通る。)
だからこそ、最初に接触すべきは「意思決定者であるGP」であり、これは事業会社の営業構造にも共通する原理です。
なぜキャピタリストではいけないのか:組織構造を理解するとわかる話
ここからは一度、話を事業会社に戻します。
私は新卒時代、未上場の中小企業・スタートアップ向けにブランディング広告を売る営業をしていました。
このとき徹底されていたのが、
“必ず社長アポを取れ。担当者では決済は動かない。”
ということです。
担当者には担当者のKPIがあり、自分の評価軸から外れた提案は通りません。
一方、社長は会社の最高意思決定者であり、必要だと思えば即断します。
だから社長アポが最も効率的だった。
この構造は、VCでもまったく同じです。
キャピタリストは「サラリーマン」である
キャピタリストが追うのは、あくまで“自分の評価軸”です。
ファンドによって違いますが、
- 名刺交換数
- ソーシング数
- 面談数
- 投資委員会上げ数
- 流行トレンドへの理解
- 次に来るテーマの収集
など、KPIに沿って行動します。
ここで重要なのは、
キャピタリストは“評価される動き”をするのであって、
必ずしも起業家にとって最善のアドバイスをするわけではない
という点です。
だからトレンドがSaaSなら「SaaSっぽい方向」に、
GenAIなら「AIを組み込め」
というフィードバックをしがちで、軸がブレて見えるのです。
一方のGPは「結果だけ」で評価される
GPは根本から立場が違います。
GPの評価者は「LPと投資先の成果」です。
KPIはありません。
ソーシング数でも面談数でもなく、
投資した会社が伸びたか、それだけで評価される。
だからGPは、トレンドや説明のしやすさよりも、
プロダクトの本質・市場の深さ・経営者の強さなど、
長期で勝てる構造に対してフラットに判断します。
この“時間軸の違い”が、フィードバックの質の決定的な差を生みます。
起業家は「主人公」であり、キャピタリストの“正しそうな意見”に沿う必要はない
起業家は常に、
自分の事業・ユーザー・プロダクトを誰よりも深く理解している存在です。
一時的なトレンドや“投資委員会向け”の言い換えで
プロダクトを曲げてはいけません。
もしキャピタリストの意見を丸呑みする必要があるなら、
そのキャピタリストこそ起業家になればいいのです。
起業家は主人公であり、外部の意見に左右される存在ではありません。
この記事のいちばん重要なポイント
・初期フェーズで話すべきVCの相手は、キャピタリストではなくGP(最高意思決定者)である
・キャピタリストは“評価される行動”をするサラリーマンであり、トレンド寄りの偏った助言になりやすい
・GPは結果だけで評価されるため、本質的な事業価値と長期的成長を基準に判断する
・起業家は他人の意見に振り回されず、プロダクトの本質と自分の軸を守るべき存在である
まとめ:資金調達のとき、最初に会うべき相手は誰か
トレンドや投資委員会事情に左右されない、
本質的な価値を見抜く意思決定者。
その条件に当てはまるのは、
GPだけです。
もちろん例外もありますが、
プレシード・シードのスタートアップこそ、
最初に狙うべきはGPのカレンダーです。
FAQ
Q1. キャピタリストと話すのは無意味なのですか?
A. 無意味ではありません。ただし初期フェーズでは、評価軸に縛られた発言が多く、事業を“投資委員会向け”に寄せた助言になりがちです。
Q2. GPとつながるにはどうすればよいですか?
A. 投資先の紹介、上場企業オーナー・起業家ネットワーク、前職の繋がりなど「直接紹介」が最も速いです。Coldメールも通りますが、構造理解が必要です。
Q3. キャピタリストのフィードバックはどの程度参考にすべきですか?
A. 参考にはしてよいですが、鵜呑みにはしないこと。トレンド寄りの助言や“説明しやすさ重視”の修正提案が多いため、事業の本質を見失うリスクがあります。
Q4. GPでもトレンドに流されることはありますか?
A. もちろんあります。ただしGPは最終的にLPと投資先に対して結果で評価されるため、短期トレンドより長期価値を見抜くインセンティブが強いです。
Q5. 起業家は結局誰の意見を信用すべきですか?
A. 最終的には自分自身です。外部の声を聞きつつも、プロダクトの本質と顧客の現実を軸に意思決定することが最も大切です。
・プレシード・シードでも「資金調達をしない」という選択肢は常にテーブルに載せておくべきで、調達が目的化した瞬間に資本政策が歪みやすくなる。
・まずは現状と1年先の課題・打ち手を因数分解し、それが本当に外部資金でしか解決できないのか、自己資本や売上強化で解決できないのかを見極める必要がある。
・それでも資金調達が必要なら、優先順位は「自己資本 → エンジェル → ベンチャーキャピタル」と考えた方がよく、VCから調達する場合はファンドのビンテージ・支援内容・担当キャピタリスト・キャッシュエンジンへの理解を6つの質問で必ず確認したい。
「資金調達ありき」のスタートアップが増えている
スタートアップの方から、プレシード・シード期の資金調達について相談をいただくことがよくあります。そのたびに毎回お話ししている内容を、ここで一度文字にしておきたいと思います。
プレシード・シードのスタートアップにとって、資金調達は大きなテーマです。
ただ最近は、「資金調達をすること」自体が目的化しているスタートアップも少なくありません。調達するために事業を立ち上げたり、プロダクトを作ったりしているケースも見かけます。
しかし、このような「資金調達ありき」のスタートアップが、その後も順調に成長できるとは限りません。
資金調達を前提に事業を進めてしまうと、その後の資本政策がどうしても“調達ありき”に引っ張られ、本来の事業成長の意思決定にブレーキがかかってしまう危険があります。
だからこそ、資金調達をしないという選択肢も含めて検討することが、とても重要だと考えています。
「資金調達しない」という選択肢も本来あるはず
資金調達は、スタートアップにとって必須条件ではありません。
資金調達をせずに事業を成長させている会社も実際に多く存在します。
毎年上場している企業を見ても、「いかにもJカーブで伸びたスタートアップ」よりも、ソリッドベンチャー的な企業の方がむしろ多いのが実態です。
(参考:https://angel-round.com/blog/solid-venture)
大切なのは、まず 「今どんな課題があり、1年先に何が課題になるのか」 をきちんと因数分解することです。
そのうえで、
- それは外部資金がないと解決できないのか
- それとも、マーケティングや営業の強化など、自社の努力で売上を伸ばすことで解決できるのか
を冷静に切り分けていく必要があります。
現状と短期(1年先)の課題を分解していくと、必ずしも資金調達をしなくてもよいケースは意外と多く見つかります。
たとえば、既存プロダクトの改善と営業体制の強化だけで、当面必要なキャッシュを自社で捻出できる場合などです。
仮に調達が必要だとしても、「どこから調達するか」は別の話
それでも、どうしても追加の資金が必要になる局面はあります。
このときに考えるべきなのは、**「調達の必要性」と「どこから調達するか」**を分けて考えることです。
外部から資金を入れる場合のざっくりした選択肢は、以下の3つです(ここではいったんデッドファイナンスは置いておきます)。
- 自己資本のみで賄う
- エンジェル投資家からの調達
- ベンチャーキャピタル(VC)からの調達
会社運営において、自己資本ですべて賄えるのであれば、それが理想です。
それが難しい場合に、初めて外部資本を検討することになるわけですが、その優先順位は個人的には
自己資本 → エンジェル → ベンチャーキャピタル(最終手段)
という順番で考えるのがよいと感じています。
3つの選択肢のメリット・デメリット(完全主観)
ここでは上記3つの選択肢について、完全に主観ではありますが、メリット・デメリットを整理しておきます。
①自己資本のみで進める場合
自己資本のみで進める最大のメリットは、経営に関する意思決定をすべて自分たちで管掌できることです。
株主が自分(たち)だけなので、外部からの圧力や期待値に左右されず、事業の方向性やスピードを自分たちの判断で決められます。
一方で、新規事業やプロダクト開発にチャレンジする際、自己資金だけではどうしても資金量が制約になり、「本来出せたはずのスピードが出せない」というデメリットもあります。
②エンジェル投資家から調達する場合
エンジェル投資家からの調達は、自己資金だけでは追いつかない部分をエクイティで補い、スピードを上げる手段です。
ベンチャーキャピタルと違い、どちらかといえば「この人を応援したい」という “人への投資”の色合いが強いことも特徴です。
また、エンジェル投資にはファンドの償還期間のような縛りがないため、短期での急成長をそこまで強く求められないケースが多いという点も、起業家にとっては心理的に楽かもしれません。
一方のデメリットとしては、投資家ごとに投資可能なチケットサイズが大きく異なることが挙げられます(100万〜1,000万など幅が広い)。
調達したい金額によっては、エンジェル投資家だけでは完結せず、結果的にVCも交えたラウンド設計が必要になる場合もあります。
③ベンチャーキャピタルから調達する場合
ベンチャーキャピタルから調達する最大のメリットは、数千万円単位のまとまった資金調達が可能になることです。
また、VCによっては独自のネットワークや投資先向け特典があり、採用・営業・PRなどで初速を出すための支援を受けられる場合もあります。
ただし、VCにはビジネスモデル上、ファンドの償還期間という制約が存在します。
ファンドを運営している以上、調達から数年以内にIPOやM&A等でEXITしてもらわなければ、LPにリターンを返せません。
そのため、調達を受けたスタートアップ側は、「数年以内にEXITを目指す」という前提で走ることになる点は、メリットでもあり、制約でもあります。
この記事でいちばん伝えたいこと
・最大のリスクは「資金調達ありき」で事業設計してしまうことであり、調達の有無そのものよりも“前提が固定化されること”が危険。
・まずは現状と1年先の課題・打ち手を因数分解し、外部資金でなければ解決できない課題かどうかを冷静に見極めることが重要。
・そのうえで、自己資本・エンジェル・VCの3つを組み合わせ、自社に最も納得感のある資本政策を設計することがプレシード・シード期の本質的な意思決定である。
プレシード・シードの資金調達でいちばん危険なのは、「調達するか否か」よりも「調達を前提にすべてを設計してしまうこと」です。
まずは 現状と1年先の課題・打ち手を因数分解し、それが本当に外部資金でしか解決できないのかを見極める。そのうえで、自己資本・エンジェル・VCの3つを組み合わせながら、「自社にとって最も納得感のある資本政策」を設計していくことが重要だと思っています。
プレシード〜プレAはなぜ難しいのか? シリーズA以降との違い
正直なところ、エンジェルラウンド/プレシード/シード/プレA あたりの資金調達は、かなり難易度が高いと感じています。
理由はシンプルで、ここまでに挙げた選択肢や組み合わせ方、投資家の性格、ラウンドの設計など、考えなければならない要素が非常に多いからです。
一方で、シリーズA以降になると、選択肢が逆に絞られていきます。
- 調達するか/しないか
- どのVC/金融機関から調達するか
- 何のために、いくら調達するか
これらを明確にしていれば、比較的シンプルに判断できるフェーズに入っていきます。
言い換えれば、プレシード〜シード期こそが、資本政策に最も頭を使うべきタイミングだということです。
VCから調達するなら必ず聞いておきたい6つの質問
では、最終的に「VCから調達する」と決めた場合、どんな点を確認しておくべきなのでしょうか。
もし自分がスタートアップ起業家なら、少なくとも以下の6つは必ず質問します。
質問1:いま投資を検討しているファンドの償還期間は何年で、いま何年目ですか?
ファンドのビンテージ(組成からの経過年数)が若ければ若いほど、EXITまでに残された時間に余裕があるということになります。
逆に、償還までの期間が短いと、どうしても「早くEXITしてほしい」というプレッシャーが高まりやすく、事業の時間軸とずれが生じるリスクが高まります。
質問2:投資後、どのような支援をしてもらえますか?
資金だけでなく、どんな具体的支援をしてもらえるのかは必ず聞いておきたいポイントです。
採用支援、営業紹介、PR支援、次ラウンドの紹介など、VCごとに得意分野は違います。
自社が必要としている支援と、投資家が提供できる支援が噛み合っているかどうかを、この質問で確認できます。
質問3〜5:担当キャピタリストについて
3つまとめて扱います。
- 質問3:担当していただけるキャピタリストは誰ですか?
- 質問4:その方ができる具体的な支援は何ですか?
- 質問5:その方の退職リスクはありますか?
結局のところ、投資家との関係は**「ファンド」ではなく「人」**です。
どんなにファンドとして素晴らしい実績があっても、実際に伴走してくれるキャピタリストとの相性が悪いと、コミュニケーションコストばかりが上がってしまいます。
事業開発やセールスの壁打ちを期待しているのに、そのスキルがほとんどない担当者がついてしまうケースもありますし、担当者がすぐ退職してしまうと、事業とは関係のない調整に時間を取られることにもなります。
投資前に、ここはかなり具体的に聞いておくべきだと思います。
質問6:コンサル・受託・代理店など「キャッシュフローが早い事業」をどう評価しますか?
最後に、個人的にとても重要だと思っている質問がこれです。
コンサル・受託開発・代理店など、比較的キャッシュフローが早く回る事業に対するスタンスを聞いておくことで、そのVCが「キャッシュエンジンとなる事業」をどう捉えているかが見えてきます。
キャッシュエンジンを持つことに肯定的な投資家もいれば、プロダクト一本足でのJカーブを志向し、受託や代理店をあまり好ましく思わない投資家もいます。
この価値観が食い違っていると、後々の経営判断でかなりストレスが溜まるので、事前に必ず擦り合わせておきたいポイントです。
資金調達はあくまで“手段”
ここまで書いてきたように、資金調達はあくまで事業を前に進めるための手段であり、目的ではありません。
私は、スタートアップはできる限り早く「自立した経営」を目指すべきだと考えています。
そのためにも、
- 「本当に資金調達が必要なのか」
- 「必要だとしたら、どの手段の組み合わせが最適なのか」
- 「VCから調達するなら、どんな投資家と組むべきなのか」
を、冷静に考えておくことが大切です。
FAQ
Q1. プレシード・シード期でも、やはり資金調達はした方がいいのでしょうか?
A. 一律に「した方がいい/しない方がいい」とは言えません。まずは現状と1年先の課題を分解し、それが自己資本や売上強化で解決できるかを確認したうえで、「それでも外部資金が必要か」を判断するのがおすすめです。
Q2. 自己資本だけで進める最大のデメリットは何ですか?
A. 意思決定をすべて自分たちで握れる一方で、新規事業やプロダクト開発に必要な資金が不足し、「やりたい施策のスピードが出せない」ことが最大のデメリットです。どこまでの成長スピードを自分たちで許容するかの見極めが重要になります。
Q3. エンジェル投資家とベンチャーキャピタル、どちらから先に調達すべきですか?
A. 個人的には「自己資本 → エンジェル → VC」の順番を推奨しています。エンジェル投資は人への応援投資の色が強く、償還期限もないため、VCに比べて時間軸の制約が小さいケースが多いからです。
Q4. VCに6つの質問をすると、嫌がられたりしませんか?
A. 真面目に投資先と向き合おうとしているVCであれば、むしろこの手の質問を歓迎してくれるはずです。自社の方針も含めてオープンに話してくれる投資家のほうが、長期的には付き合いやすいと考えます。
Q5. デットファイナンス(融資)は本当に検討しなくてよいのでしょうか?
A. 本文では論点を絞るために一旦扱っていませんが、実際には融資も重要な選択肢のひとつです。プロダクトの性質やキャッシュフローの見込みによっては、エクイティよりも融資のほうが適しているケースもありますので、別途切り分けて検討する価値があります。
多くの国内VCは、スタートアップに対して「競争優位性」「差別化」「Moat」「マーケ施策」「認知戦略」などを当然のように尋ねるが、実は 自社こそそれらを明確に答えられていない 場合が多い。VCも本質的には“ひとつの事業会社”であり、独自のビジネスモデルを持つ営利企業であるにも関わらず、自社の強み・戦略・ポジションニングの議論が不十分なまま「投資家」という立場に逃げがちだ。だからこそ、VC自身も自社の事業戦略を再構築し、独自のカテゴリーをつくり、言語化し、それを体現する行動が求められる。当社が「ソリッドベンチャー」というカテゴリーを自ら作り出したことで毎月40〜60件の問い合わせを獲得しているのは、その一例である。
VC がスタートアップに必ず聞く“あの質問”
VC が投資検討を進める際、スタートアップに対して多くの質問を投げかける。
シードやプレシードならなおさら、事業構想から競争優位性、プロダクトイメージ、市場環境、財務状況、資本政策、Moat、比較対象(Comps)まで幅広い。
「御社の競争優位性はどこにありますか?」
「差別化ポイントは?」
「Moatは?」
こうした質問を受けてきた起業家は多いはずだ。
また、投資後の定例MTGでは、プロダクト進捗、営業KPI、マーケティング施策、組織・採用、提携、ファイナンス……と話すテーマは多岐にわたる。
「マーケティングはどんな施策を?」
「認知を広げるために何をしますか?」
VC は当たり前のように、こうした「戦略の言語化」と「行動の具体性」をスタートアップに求めている。
しかし——VC自身はどうだろう?
ここでひとつ質問をしたい。
「国内の独立系VCの“固有の特徴”を、3秒以内に明確に答えられますか?」
多くの人は、こうした“似たようなコンセプト”を挙げるはずだ。
- 特定領域に特化
- 特定の年齢層・キャリアに投資
- 大学・アクセラ・事業会社系など出自
- 投資ステージ(シード・アーリー等)の違い
- ハンズオン支援の濃さ
- コワーキングスペース併設
- アクセラプログラム実施
確かにそれっぽい特徴に見えるが、実はほとんどのVCが同じようなコンセプトを掲げている。
つまり、差別化になっていない。
ではあらためて問いたい。
スタートアップには当然のように求めている以下の質問を、
“VC自身”が答えられているだろうか?
「御社の競争優位性は?」
「差別化ポイントは?」
「独自のMoatは?」
「どんなマーケティング施策を?」
「認知を広げるために何をしている?」
率直に言えば、これに明確に答えられるVCはほとんどいない。
答えたとしても、どこのVCにも当てはまりそうな抽象論しか出てこない。
VC自身が「戦略の言語化」をできていない矛盾
VCも基本的には株式会社として運営される営利企業であり、スタートアップと同じく「ビジネスモデルで戦う事業体」である。
にもかかわらず、“自社をスタートアップと同じ構造で捉える視点”が欠けていることが多い。
つまり、
- 自社の競争優位性
- 独自のポジショニング
- 認知獲得戦略
- マーケティング施策
を自分たちでやり切れていないのに、投資先にはそれを求める。
これは率直に言って、あまり健全ではない。
投資対象を絞り込みすぎると投資先が減ってしまう——
これを言い訳にして、自分たちの“本当の強み”を作りにいかないVCも多いのが現実だ。
VCも「カテゴリーを自ら作る」べき
私は独立したときから、
「ソリッドベンチャーにしか投資しない」
と決めていた。
そして、そのために 「ソリッドベンチャー」という言葉自体を広げる と決め、
記事・SNS・イベント・書籍などを通じて徹底的に発信を続けた。
その結果、ありがたいことに今では月間40〜60件もの問い合わせが自然に届くようになっている。
「うちはソリッドベンチャーだと思うのですが…」
「ソリッドな事業を展開していて…」
「ソリッドベンチャーの作り方を聞きたくて…」
これはまさに、「自らカテゴリーを作る=選ばれる理由を作る」ことが価値になる証拠だ。
そして——言うなら体現しろ
SNSコンサルがフォロワー数十人しかいなければ説得力がないように、
VCだって 言うからには自分たちが体現しなければならない。
だから当社は、ファンド運営と並行して、
- 自社ポジションの明確化
- ソリッドベンチャー概念の普及
- 認知獲得のための継続的施策
- VC自身の“言語化”の実践
を続けてきた。
「自分たちがやっていないのに、投資先に偉そうなことは言えない」
という考えが根底にある。
VCもスタートアップであり、ブランドを創り、戦略を磨き、カテゴリーを作る必要がある。
その自覚こそが、投資先にとっても、VC自身にとっても、最も健全な姿だと思っている。
・VCはスタートアップに“戦略の言語化”を求める一方で、自社の戦略は不明瞭なままのケースが多い
・VCも本質的には事業会社であり、競争優位性・差別化・認知戦略を持つべき存在
・カテゴリーを自ら作り、体現し続けることで、競争優位性は積み上がる
・「やっていないのに言う」はブランドを毀損する。VCこそ自ら実践すべき
FAQ
Q. なぜVCは差別化が難しいのですか?
VCは“お金”という商品がコモディティ化しており、差別化ポイントを自ら作らないと違いが生まれにくいためです。
Q. VC自身がマーケティングすべき理由は?
投資先に求めていることを自ら体現することで、投資家としての信用が増し、問い合わせ数や deal flow に直結するからです。
Q. カテゴリーを作るとはどういうこと?
既存の投資領域やステージに乗るのではなく、「ソリッドベンチャー」のように自社が投資する理由を言語化した“独自の土俵”を作ることです。
Q. 投資先にもこの考え方を推奨すべき?
はい。自社の強み・特徴を言語化し、自分自身が体現することは、スタートアップ・VCともに共通の基本原則です。