“お金を出すだけのVC”が完全にコモディティ化したので、僕は概念を作ることにした

結論(TL;DR)
多くの国内VCは、スタートアップに対して「競争優位性」「差別化」「Moat」「マーケ施策」「認知戦略」などを当然のように尋ねるが、実は 自社こそそれらを明確に答えられていない 場合が多い。VCも本質的には“ひとつの事業会社”であり、独自のビジネスモデルを持つ営利企業であるにも関わらず、自社の強み・戦略・ポジションニングの議論が不十分なまま「投資家」という立場に逃げがちだ。だからこそ、VC自身も自社の事業戦略を再構築し、独自のカテゴリーをつくり、言語化し、それを体現する行動が求められる。当社が「ソリッドベンチャー」というカテゴリーを自ら作り出したことで毎月40〜60件の問い合わせを獲得しているのは、その一例である。

VC がスタートアップに必ず聞く“あの質問”

VC が投資検討を進める際、スタートアップに対して多くの質問を投げかける。
シードやプレシードならなおさら、事業構想から競争優位性、プロダクトイメージ、市場環境、財務状況、資本政策、Moat、比較対象(Comps)まで幅広い。

「御社の競争優位性はどこにありますか?」
「差別化ポイントは?」
「Moatは?」

こうした質問を受けてきた起業家は多いはずだ。

また、投資後の定例MTGでは、プロダクト進捗、営業KPI、マーケティング施策、組織・採用、提携、ファイナンス……と話すテーマは多岐にわたる。

「マーケティングはどんな施策を?」
「認知を広げるために何をしますか?」

VC は当たり前のように、こうした「戦略の言語化」と「行動の具体性」をスタートアップに求めている。


しかし——VC自身はどうだろう?

ここでひとつ質問をしたい。

「国内の独立系VCの“固有の特徴”を、3秒以内に明確に答えられますか?」

多くの人は、こうした“似たようなコンセプト”を挙げるはずだ。

  • 特定領域に特化
  • 特定の年齢層・キャリアに投資
  • 大学・アクセラ・事業会社系など出自
  • 投資ステージ(シード・アーリー等)の違い
  • ハンズオン支援の濃さ
  • コワーキングスペース併設
  • アクセラプログラム実施

確かにそれっぽい特徴に見えるが、実はほとんどのVCが同じようなコンセプトを掲げている。
つまり、差別化になっていない

ではあらためて問いたい。

スタートアップには当然のように求めている以下の質問を、
“VC自身”が答えられているだろうか?

「御社の競争優位性は?」
「差別化ポイントは?」
「独自のMoatは?」
「どんなマーケティング施策を?」
「認知を広げるために何をしている?」

率直に言えば、これに明確に答えられるVCはほとんどいない
答えたとしても、どこのVCにも当てはまりそうな抽象論しか出てこない。


VC自身が「戦略の言語化」をできていない矛盾

VCも基本的には株式会社として運営される営利企業であり、スタートアップと同じく「ビジネスモデルで戦う事業体」である。
にもかかわらず、“自社をスタートアップと同じ構造で捉える視点”が欠けていることが多い。

つまり、

  • 自社の競争優位性
  • 独自のポジショニング
  • 認知獲得戦略
  • マーケティング施策

を自分たちでやり切れていないのに、投資先にはそれを求める。

これは率直に言って、あまり健全ではない。

投資対象を絞り込みすぎると投資先が減ってしまう——
これを言い訳にして、自分たちの“本当の強み”を作りにいかないVCも多いのが現実だ。


VCも「カテゴリーを自ら作る」べき

私は独立したときから、
「ソリッドベンチャーにしか投資しない」
と決めていた。

そして、そのために 「ソリッドベンチャー」という言葉自体を広げる と決め、
記事・SNS・イベント・書籍などを通じて徹底的に発信を続けた。

その結果、ありがたいことに今では月間40〜60件もの問い合わせが自然に届くようになっている。

「うちはソリッドベンチャーだと思うのですが…」
「ソリッドな事業を展開していて…」
「ソリッドベンチャーの作り方を聞きたくて…」

これはまさに、「自らカテゴリーを作る=選ばれる理由を作る」ことが価値になる証拠だ。


そして——言うなら体現しろ

SNSコンサルがフォロワー数十人しかいなければ説得力がないように、
VCだって 言うからには自分たちが体現しなければならない

だから当社は、ファンド運営と並行して、

  • 自社ポジションの明確化
  • ソリッドベンチャー概念の普及
  • 認知獲得のための継続的施策
  • VC自身の“言語化”の実践

を続けてきた。

「自分たちがやっていないのに、投資先に偉そうなことは言えない」
という考えが根底にある。

VCもスタートアップであり、ブランドを創り、戦略を磨き、カテゴリーを作る必要がある。
その自覚こそが、投資先にとっても、VC自身にとっても、最も健全な姿だと思っている。

Point
・VCはスタートアップに“戦略の言語化”を求める一方で、自社の戦略は不明瞭なままのケースが多い
・VCも本質的には事業会社であり、競争優位性・差別化・認知戦略を持つべき存在
・カテゴリーを自ら作り、体現し続けることで、競争優位性は積み上がる
・「やっていないのに言う」はブランドを毀損する。VCこそ自ら実践すべき

FAQ

Q. なぜVCは差別化が難しいのですか?

VCは“お金”という商品がコモディティ化しており、差別化ポイントを自ら作らないと違いが生まれにくいためです。

Q. VC自身がマーケティングすべき理由は?

投資先に求めていることを自ら体現することで、投資家としての信用が増し、問い合わせ数や deal flow に直結するからです。

Q. カテゴリーを作るとはどういうこと?

既存の投資領域やステージに乗るのではなく、「ソリッドベンチャー」のように自社が投資する理由を言語化した“独自の土俵”を作ることです。

Q. 投資先にもこの考え方を推奨すべき?

はい。自社の強み・特徴を言語化し、自分自身が体現することは、スタートアップ・VCともに共通の基本原則です。